東京高等裁判所 平成12年(行コ)253号 判決 2000年12月27日
控訴人
A株式会社
右代表者代表取締役
甲
右訴訟代理人弁護士
田中平八
被控訴人
横浜中税務署長 植松秀樹
右指定代理人
齋藤紀子
同
川上昌
同
倉田薫
同
杦田喜逸
同
髙野浦信昭
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2(甲事件について)
控訴人が被控訴人に対し平成一〇年六月一一日付けでした控訴人の次の五事業年度(以下「本件五事業年度」という。)の各修正申告(以下「本件各修正申告」という。)は、いずれも無効であることを確認する。
(一) 平成四年四月一日から平成五年三月三一日まで(平成五年三月期)
(二) 平成五年四月一日から平成六年三月三一日まで(平成六年三月期)
(三) 平成六年四月一日から平成七年三月三一日まで(平成七年三月期)
(四) 平成七年四月一日から平成七年三月三一日まで(平成八年三月期)
(五) 平成八年四月一日から平成九年三月三一日まで(平成九年三月期)
3(乙事件について)
控訴人が被控訴人に対し、平成一一年一月一日から同年五月三一日まで(以下「平成一一年五月期」という。)の事業年度の法人税の申告をするに際し、法人税申告書の別表五(一)の期首現在利益積立金額欄に別途利益として「二〇億六一五八万二〇〇一円」と、同差引翌期首現在利益積立金額欄に別途利益名目の数額を記載する義務のないことを確認する。
二 被控訴人
主文第一項と同旨。
第二事案の概要
本件甲事件は、控訴人が、被控訴人に対し、平成一〇年六月一一日付けでした本件五事業年度の法人税の各修正申告(本件各修正申告)が無効であることの確認を求めた事案であり、本件乙事件は、控訴人が、被控訴人に対し、平成一一年五月期の法人税の確定申告書に本件各修正申告を前提とした期首・期末利益積立金額を記載する義務がないことの確認を求めた事案である(なお、本件乙事件は、本件甲事件の追加的併合事件である。)。
控訴人は、被控訴人に対し、平成一〇年六月一一日、原判決別表一記載の法人税申告書の別表五(一)の「利益積立金額の計算に関する明細書」の「別途利益」欄の項目・金額及び原判決別表二記載の法人税申告書の別表四の「所得の金額の計算に関する明細書」の「別途利益」欄の項目・金額をそれぞれ記載した本件各修正申告書を提出した。
本件の主要な争点は、(一) 本件各修正申告の無効原因の有無(甲事件の本案の争点)、(二) 平成一一年五月期の申告書に別途利益を記載すべき義務の存否(乙事件の本案の争点)、(三) 本件各修正申告の処分性の有無(甲事件の本案前の争点)及び(四) 乙事件の訴えについての確認の利益及び被告適格の有無、である。
原審において、控訴人は、(一) 甲事件に係る本件各修正申告の無効原因について、(1) 控訴人のした本件各修正申告はいずれも錯誤に基づくものであるから無効である。(2) 控訴人のした本件各修正申告は国税局による事実上の強制によるものであるから無効である、(二) 乙事件に係る平成一一年五月期の別途利益の記載義務について、控訴人が本件各修正申告申告書の別表五(一)の期首・期末利益積立金額欄に記載した別途利益は実際には存在しないものであるから、控訴人は、平成一一年五月期の事業年度の法人税を申告するに際して、期首・期末利益積立金額欄に別途利益として数額を記載する義務はない、などと主張した。
原審は、(一) 控訴人の甲事件の訴えは、行政庁である被控訴人に対し、本件各修正申告行為が行政事件訴訟法三条四項の「処分」に該当するとしてその無効確認を求め、訴訟類型として抗告訴訟を選択するものと解されるところ、本件各修正申告行為は、行政庁の行う行為ではないから、行政事件訴訟法三条四項の処分には該当せず、また、本件各修正申告無効確認の訴えは行政事件訴訟法三六条の要件を満たさないので、不適法である、(二) 控訴人の乙事件の訴えは、控訴人が平成一一年五月期の法人税の確定申告書の別表五(一)の期首・期末利益積立金額欄に別途利益を記載する義務がないことの確認を求め、訴訟類型として当事者訴訟に当たると解されるところ、当事者訴訟において被告適格を有するのは行政庁ではなく権利義務の主体たりうる国であるところ、乙事件の訴えは被告を横浜中税務署長と選択して提起された訴えとして不適法である旨判示して、控訴人の本件甲事件及び本件乙事件に係る各訴えをいずれも却下した。
控訴人は、原判決を不服として、本件控訴を提起した。
当事者双方の主張を含む本件のその余の事案の概要は、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の内容」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
第三当裁判所の判決
当裁判所も、控訴人の本件甲事件及び本件乙事件に係る各訴えはいずれも不適法であって却下を免れないところ、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
控訴人は、本件各修正申告は、東京国税局の黒田主査の指示によるものであって、行政庁の処分に該当する旨主張する。しかしながら、(一) 抗告訴訟は、行政庁の公権力の行使にあたる行為を対象として、その存否又は効力等を争う訴訟類型であり公権力の行使にあたる行為とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解すべきである(最高裁判所昭和三七年(オ)第二九六号昭和三九年一〇月二九日小法廷判決・民集一八巻八号一八〇九頁参照)ところ、控訴人が主張する法人税の修正申告行為は、公法関係における行為であるものの、一私人が行う行為であって、行政庁の行う行為ではないから、行政事件訴訟法三条四項の処分には該当しないこと及び(二) 行政事件訴訟法三六条によれば、処分の無効確認の訴えは当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り、提起することができると定められていること。そして、当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない場合とは、当該処分に基づいて生ずる法律関係に関し、処分の無効を前提とする当事者訴訟及び民事訴訟によっては、その処分のため被っている不利益を排除することができない場合はもとより、当該処分に起因する紛争を解決するための争訟形態として、当該処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟との比較において、当該処分の無効確認を求める訴えの方がより直截的で適切な争訟形態であるとみるべき場合をも意味するものと解するのが相当である(最高裁判所平成元年(行ツ)第一三一号平成四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号一〇九〇頁参照)ところ、本件においては、控訴人は、本件各修正申告の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えとして、より直截的で適切な訴訟形態である国を被告とする租税債務不存在確認の訴え又は過払金の返還請求の訴えを提起することができるというべきであり、これによって、その目的を達することができるから、甲事件の訴えは、行政事件訴訟法三六条の要件を満たさない訴えであるといわなければならず、その詳細は原判決の説示するとおりであって、控訴人の前記主張は独自の見解であるから採用することができない。そうすると、甲事件の控訴人の訴えは、いずれにしても不適法である。
また、控訴人の乙事件の訴えは、(一) 被告は国とすべきであって、横浜中税務署長は被告適格はないものであり、したがって、同署長を被告として選択して提起された不適法な訴えであること及び(二) 被訴人は平成一一年五月期の法人税申告書に別途利益の記載義務のないことを現時点で独立して確認する法的利益のないことは原判決が逐次説示するとおりである。そうすると、控訴人の乙事件の訴えは、いずれにしても不適法である。
したがって、控訴人の本件各訴えはいずれも不適法であるから却下を免れない。
第四結論
以上によれば、控訴人の本件控訴はいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤瑩子 裁判官 秋武憲一 裁判官 小池一利)